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長崎大学主催のセミナー・その2 [雑談]

内田名誉館長が講演を行った長崎大学のセミナーは2部構成だったのだけど、続いて講演を行ったのは、長崎大学の山口教授。
板鰓類(サメ・エイ)を中心に研究を行っている魚類学者だという。
存じ上げない人ということもあり、大変失礼ながら、内田館長のような期待はしていなかったのだけど、結果的には山口教授からも大変興味深い話を聞かせて頂くことができた。

山口教授は語り口調も穏やかな女性で、オレのような一般の人も来場しているセミナーということもあって、研究活動のフィールドとされている有明海の魚を分かりやすく紹介する所から始まった。
どういう魚かを紹介する際、その食味ついて説明してくれるのが好印象で、やはり好みのタイプでない魚でも、“美味しい”と聞けば興味を引かれるものである(笑)

話題は次第に、山口教授の研究されている板鰓類へと移っていった。
有明海で板鰓類というと、多大な漁業被害を出す有害な存在として駆除されているナルトビエイが連想されるが、もちろんその話題も出た。
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ナルトビエイについては、漁業被害の原因、そしてその対策なども関係することから、かなり幅広い調査、研究がなされているようだ。
ナルトビエイは温かい水を好む種類であるのは間違いないが、ニュースなどで語られるように温暖化の影響で南からやってきたものではないらしく、もともと周辺海域にいた種類なのだという。つまり、急に増えたものではないということ。
低水温耐性が低く、16℃程度以下の水温では越冬できないため、以前は水温の低下と共に移動していたようだが、有明海の水温が上昇し、そこでの越冬が可能になったことから、居着くようになったものらしい。
遊泳力はさほど高くなく、自分で泳いで行って分布を広げる能力はないそうだ。

海ではアサリやサルボウなどの貝類のみを専食しており、分布域も貝類がいる場所、つまりは漁場と重なる。個体にロガーを取り付けた調査でも、貝類の生息域を中心に、有明海のごくごく狭い範囲内しか移動していないことが分かったという。

有明海の貝類の漁獲量はかつてに比べて大幅に減少しているそうだが、その減少はナルトビエイが多く見られるようになる前から始まっており、さもエイの大発生が理由のように言われているが、直接の原因は、有明海の環境変化(水温の上昇や水質の悪化など)の影響の方がはるかに大きいようだ。何しろ、エイは昔からそこにいたのだからね。

だが、漁業に害を与える存在として、大量に駆除されている。
国から補助金が出る事業として行われているため、貝ではなくエイを中心に獲っている漁師さえいるらしい。
お陰で有明海のナルトビエイはかなり数を減らしており、なかなか見られなくなっているだけでなく、個体の小型化が進み、以前見られたような大型個体はもう見られないという。
トビエイ類は進化が進むほど、大型化、少子化の傾向があるそうで、もっとも進化しているマンタが1匹しか出産しないことも、そんな傾向を象徴している。
ナルトビエイも1~3匹しか出産しないため、劇的に増えると言うことがない。
大発生と言われていたのも、そこに餌である貝類が豊富にあったことから、多くの個体が集中的に集まった結果のようだ。
ただし、貝を食べるエイの数が大幅に減ったことから、貝類の漁獲量は低水準ながら安定傾向にあるそうで、駆除事業は一定の効果があったと結論づけられているらしい。
効果が認められてしまい、それで生活の糧を得ている人がいるとなると、駆除事業はこれから先も続けられていくはずで、そうなれば有明海の個体群は、著しい減少、もしくは絶滅かも知れない。
先にも書いたように、ナルトビエイは分布域を広げられるほどの遊泳力を持っていなのだからね。
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乱獲や環境悪化など、人の活動に起因するツケを、動物に押しつけるという発想には辟易する。人の経済活動のために、ずっと前からそこにいた生き物を絶滅させてしまっていいのだろうか? 
ビニールや発泡スチロールに殺される海の生物の話に続き、ここでも何とも言えない気分になった。
余談ながら、駆除事業で捕獲されたエイたちは、産廃として処分することが決められていて、食べたり、何かしらに利用したりもできないのだそうだ。食べると結構美味しいそうで、捕まえてゴミにするだけなんて、それも酷い話だなぁ、と。

ちなみに、ここに書いてある話は、山口教授の話を聞いて、オレが思ったこと。
山口教授がこういう話をしたワケではないので、誤解の無きよう!!


ナルトビエイの調査の話も興味深く楽しかったけれど、ワクワクという意味では、日本周辺にいるウチワザメが、これまで知られていたものとは違う未記載種だったという話。
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これまでウチワザメと言えば、Platyrhina sinensis という学名を持つものがそれとされてきた。
日本近海で普通に見られる種類であることから、有明海周辺でも普通種。しかし、見慣れたウチワザメも、あらためて調査してみるとP.sinensisとは明確に違う特徴を有していることが分かった。しかもそれが1種類だけでないことも。結論から言うと、それぞれがそれまで知られていたウチワザメとは別種であることが判明し、2011年に新種として記載されたのだそうだ。
日本近海で見られる新種のウチワザメにはP.tangiという名前が与えられ、もう1種類にはオニノウチワ(P.hyugaensis)という新和名も提唱されている。
また、これまでの模式種であったP.sinensisは日本近海にはいないことも判明し、水族館などで展示されているものなど、目に触れるウチワザメはほぼすべてがP.tangiだったということになるようだ。

新種を新種として正式に記載をするには、まず、模式標本や原記載と比較し、明らかにそれとは違うものであることを絶対的に証明する必要があるが、その確認作業は膨大な標本を前に、圧倒的に細かい作業の積み重ねることだ。
とりわけ、ウチワザメのようなありふれた魚の場合、その確認作業はさらに念入りになり、標本の数も膨大になるのだろうし、そもそものウチワザメ(P.sinensis)が記載されたのは1801年のこと。博物学草創期だろう210年前の標本や記載論文なんて、何だか余計に大変そうだが、そんな気の遠くなるような面倒な作業を乗り越えて導き出された結果を、たった1500円の参加費だけで聞けてしまうなんて!! これが聞けただけでも、このセミナーに参加した大きな価値があったというものだ。

自分の知らないこと、それも自分の興味があることだと、話を聞かせてもらうのが本当に楽しい。
内田名誉館長の話といい、山口教授の話といい、実に興味深くて、セミナーの2時間少しの時間はアッと言う間に過ぎ去っていった。
大学主催ってことは、もしかするとセミナーは水産学を志す学生に向けたものだったのかも知れないけれど、来場していた人たちは比較的年齢層が高めだった。
まぁ、水族館や魚のマニアというワケではなかったんだろうけど。

山口教授の話も、またどこかで聞ける機会があるといいなぁ。
タグ:水族館
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