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アルプスあづみの公園の気になる魚 [淡水魚]

アルプスあづみの公園はとても綺麗な水槽の水族館だった、という話は先週のブログでした通り。
とりわけ珍しいものがいた訳ではないのだけど、気になったものを。

まずはイワナ。
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ニッコウイワナとアメマスの2種類が展示されていた。
ニッコウイワナは水族館で展示されるイワナの定番亜種。
もともと、長野県では日本海にそそぐ河川に生息していたのがニッコウイワナだそうで、そういう意味では、地元の魚と言っていいのかも知れない。

しかし、アメマスである。
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何でアメマス?
ご存知の通り、アメマスはエゾイワナのことである。
北海道だけに生息している訳ではないようだが、長野にいるの? な魚。
と、違和感を憶えつつ眺めていたのだけど、どうやら安曇野周辺はこうしたマス類の養殖が盛んにおこなわれているエリアらしく、イワナはその主力商品のひとつのようだ。
信州サーモン同様、染色体操作がなされた品種も存在しているらしいのだけど、その割に、エントランス水槽にいた信州サーモンみたいなアピールはされていなかったけど……

そしてその信州サーモンだが、この水族館の看板と言ってもいい魚。
長野県で作出され、地元で盛んに養殖がなされており、長野県内で流通もしている、まさにこの水族館ならではの存在だ。
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その正体は、ニジマスとブラウントラウトを掛け合わせて作出されたもの。
何でも、ニジマスの肉質のよさを持ちながら、ニジマスが掛かりやすい病気に強く、成長が速く、しかも大きくなるという、いいことづくめな魚。
写真でしか見たことがないけれど、その身は鮮やかなオレンジに輝き、見た目にも綺麗でとても美味しそう。
食べればきっと“美味い!!”となるのだろうと思う。

でも、本来、属が異なるその2種間では、交雑種はできない。
しかも、片親のニジマスは染色体処理が施された4倍体。倍数体の生き物は繁殖能力を持たないという認識だが、その卵子に合わせるブラウントラウトの精子は、これまた雌を性転換させたものから産出したもので、産まれてくる個体はすべてメスになるというもの。
産まれた信州サーモンは繁殖能力を持たない(成熟しない)ため、どんどん成長し、しかも早いペースで大きくなる。
少々難しいのだけど、長野県の水産試験場が10年の歳月をかけて開発したというだけあって、ただただスゴイ!! そんなことできるの!! と驚きと感心させられるばかり。

詳しくは
https://www.pref.nagano.lg.jp/suisan/jisseki/salmon/dekirumade.html

こうした品種は、信州サーモン以外にも各地で作出されている。

しかし、水槽を泳ぐ信州サーモンを眺めながら、何だかちょっとした罪悪感みたいな、複雑な気分になってしまった。
同じ水槽を泳ぐニジマスやブラウントラウトよりもずっと大きく、しっかりとした体つきをしているけれど、それはより多くの肉を取るためのもの。
他の魚と同様、餌を食べ、糞をして成長をする。しかし、成熟することはない。
だからこそ大きくなるのだけど、繁殖能力のない魚だから婚姻色もないし、そもそもメスだから、メスをめぐるオス同士の争いみたいなものも無縁。当然、産卵場所をメス同士で争うこともない。

魚に限らず、生物の一生には、産まれ、育ち、子孫を残し、みたいなサイクルがあって、とりわけ、サケ科魚類にはその一生の集大成として繁殖行動があることが多い。
信州サーモンのベースとなっているニジマスやブラウントラウトは繁殖で生涯を終えるタイプではないけれど、それでも繁殖時には婚姻色を帯び、体型も繁殖時のものになる。そして様々な闘争行動も繰り広げられる。
その一連の行動の中には、まさに、命の煌めきとでも言うのか、とんでもなく魅力的な一瞬があったりするのに、この信州サーモンの一生にはそれがない。ただ餌を食べて大きくなるだけ。

サケ科魚類の姿形をしていて、ちゃんと生きているのに、生き物が持つ機能がない。
人が食べなければ、ただ大きくなって死ぬだけの存在。
オレの目の前を泳いでいるこの魚の形をしたものは一体何なんだろう?
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食べるために作られたものなのだから、生産性がいいことは重要だし、それが高いレベルで実現されていること、そして繁殖能力がないことから、万が一自然下に逸出しても増えてしまう恐れが無いなど、安全性も高い。
そういう技術的な部分は本当に凄いと思うのだけど、水槽を泳いでいるのが“生ける刺身”である現実は、何とも言えずもやもやした気分になる。

可哀そう、とかそういうことじゃない。魚に限らず、食肉処理される家畜なんて、どれも似たようなものだということは分かっているから。
でも、人がそこまでしてもいいのだろうか? みたいな思いは最後まで拭い去れなかった。

最初から刺身で産まれてきてくれれば、こんな風には思わなかったのだろうけれど……
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Kazu

こんにちは。単純に種を残すことが生物の最大の目的と考えると、複雑な気分…というのもよく分かります。私はめnちさんかめきちさんのブログも拝見していますが、ミストラルさんは、単なる紀行文のみに留まらず、今回のようなテーマも書かれているところが、私がコメントしたいと考えた理由の一つです。議論とかそういうのではなく、これからも水族館好きのミストラルさんのいろいろな考えを聞かせていただければと思います。うまく伝わっておらず、不快にさせてしまったらすみません。
by Kazu (2019-02-18 19:18) 

ミストラル

>kazuさん

こんにちは。

不快だなんて、全然そんなことは思いませんよ。
むしろ、ありがたいです。
今後とも、ご贔屓のほど、よろしくお願いします。
by ミストラル (2019-02-23 11:14) 

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