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マンタの出産 2013 本当の結末@沖縄美ら海水族館 [エイ]

11月23日、東京大学の弥生講堂で開催された「マリノサイエンスフォーラム 海獣三昧」という講演会に行ってきた。
“イルカとの会話”を目指し、認知機能の研究を続けておられる東海大学の村山司教授を中心に開催されているフォーラムで、イベント名の通り、海獣の話題が共通テーマとなっている。
今回の講演テーマは鯨類。登壇された話し手は全部で6名。それぞれが披露された話はいずれも大変興味深く、東京大学という、オレには何とも縁遠いところで開催されていたのも手伝ってか、フォーラム終了後は何だか賢くなったような気分に(笑)

先にも書いたように、いずれの話も大変興味深い内容だったのだけど、中でも、美ら海水族館の植田啓一獣医師の話は、いろいろな意味でとりわけ深く印象に残った。
植田啓一獣医師と言えば、先日死んだイルカのフジの人工尾ビレの発案者であり、その開発にも深く携わった人物として知られているが、現在は主に魚類を担当しているとのこと。
そのため、氏の話には鯨類だけでなく、魚類、それも板鰓類の話題が多く、披露された話、そして写真に、最前列で聴講していたにも関わらず、あっ!! とか おー!! とか、声を漏らしてしまったことも何度か…(汗)

そんな植田獣医師の話で、特に印象深かったのは、やはりマンタの繁殖について。
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死んだ母親個体。この写真を撮った2週間後くらいに…

このブログでも話題にしているが、2013年、それまで6年連続で繁殖に成功していたメス親が死んでしまった。
水族館の発表では、産後に死んでしまい、産まれた仔もその後、死んだとされていたが、実はそうではなかったらしいのだ。
結論から言うと、母親が死んだのは産後ではなく、仔も産まれた訳ではなかったのだ。

植田獣医師が公開した動画によると、出産を直前に控えた母親は突如、状態を崩し、泳ぎが弱くなり、まるで墜落するみたいに不安定に着底。すぐに仰向けになってしまい、素人目にも“もうだめだ”と思えてしまうような状態だった。
その瞬間を見るために、これまで毎年のように美ら海水族館に足を運んだ身としては、母親個体の死にゆく様子は、やはり何とも言えないものがあった。
まるで目の前でそれが起きているかのような、目の前で流れる動画。死亡を知った時の落胆が蘇ってくるようだった。

しかし、そこからが凄かった。
植田獣医師を始めとする数名の水族館のスタッフ氏たちが一斉に入水。今まさに事切れようとしている母親個体を観客から見えない位置へと運ぶと、植田獣医師が総排出腔に手を突っ込んで、胎内から胎仔を取り出すという荒技に出た。
タイミング的には産まれる寸前。もしかしたら胎仔だけでも救えるかも知れない。そんな思いで胎仔を引っ張り出す。
誰も経験したことがなく、もちろんデータもないチャレンジだ。
そもそも、マンタの飼育下での繁殖例自体、美ら海水族館の例しかないのだからね。

出そうで出てこない胎仔。辺りには溢れ出た子宮ミルクが煙幕のようにモワモワと漂う。
動画でしか見たことがないけれど、マンタの本来の出産は、まさに排出されるみたいな感じ。折りたたまれた仔魚は、フラフラと沈んでいきながら、思い出したみたいに左右のヒレを広げ、不器用に泳ぎ出すのだ。

しかし、苦労の末に引っ張り出された仔魚は、折りたたまれたまま動こうとしない。
植田獣医師を始めとするスタッフたちは、口を動かしてエラに水を送り込んだり、ヒレを広げて動かしてみたりと、生まれ出たことを気付かすべく努力を続けた。
プールの中で仔魚を抱き、ヒレを動かし続けること数時間。ようやく自発的な遊泳行動が見られ始めた。
取り出されて4時間ほどで、何とか泳げるようになったことから、育成用の生け簀へ。

でも、結果は残念ながらご存じの通り。
すぐに死んでしまったのだと思っていたんだけど、2日くらいは生きていたらしい。

フォーラム終了後、植田獣医師から直接話を聞くことができたのだけど、マンタの出産や繁殖等々、まだまだ分からないことばかりなのだそうだ。
IMG_2883.jpg
父親個体。現在は展示はされていないけれど、健在のはず。

何しろ、繁殖例は同一ペアの6回のみ。それだけあれば、と思ってしまうが、妊娠期間や繁殖スパンなどなど、すべてのマンタがそうなのか、それともあのペアだけがそうなのか、など、やはり複数の例と比較してみなくては、結論付けはできないものらしい。
そりゃあ、そうだよね。

植田獣医師は、様々な治療や処置など、マンタやジンベエザメなど大型の生物とやり取りのことを“戦い”と言っていたけれど、ここでしたマンタの話に関連する動画、そしてその他の動画を見ると、それが冗談でも何でもなく、本当に戦いなんだろうなぁ、と納得させられてしまった。

植田獣医師の話は、オレの特別興味のある内容だったので深く印象に残ったけれど、水族館のスタッフの人たちは、どこでも似たような“戦い”を繰り広げているのだろうと思う。

水族館ってスゴイよね、まったく。
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